AI時代に「広告運用」の意味が入れ替わる——マーケティングは相対評価のゲーム

広告代理店、もう要らないのではないか——2025年から2026年にかけて、業界の内側でも外側でも、この問いが真顔で語られるようになりました。AIが入札を最適化し、クリエイティブまで自動生成する時代に、自分たちの仕事の意味が揺らいでいる。そう感じているマーケターや代理店の方は、こんな不安を抱えていないでしょうか。

  • AIが運用を自動化する中で、広告代理店に依頼する意味がどこにあるのか分からない
  • 「運用」という言葉が指していた仕事の中身が、自分でも説明できなくなってきた
  • 規模で勝てない、特化でも頭打ち、事業転換すべきか、迷ったまま時間だけが過ぎている
  • 自社のマーケティングの「次の打ち手」を、誰に相談すればいいのか分からない

この記事は、2025年に起きた業界再編を出発点にしながら、「広告運用のAI時代における価値とは何か」を問い直す論考です。先に立場をはっきりさせておきます。私たちは、AIで業界が終わるとも、AIで全部できるようになるとも思っていません。生成AIへの期待は、業界論調が煽るほど現実には届いていない。一方で、AIに過剰に怯えて「代理店オワコン論」に乗る必要もない。等身大の現場感覚で、いま起きていることと、これから残る仕事を整理する——それがこの記事の目的です。

結論から書きます。広告は相対評価のゲームであり、AIが入札と配信を最適化するほど、勝負は「AIの内側」ではなく「AIの外側」——人間が選ばれる理由を設計する領域——に移っていきます。「運用」という言葉の中身は確かに入れ替わりつつありますが、それは仕事がなくなるということではなく、仕事の重心が変わるということです。この変化に気づけた代理店と事業会社が、次の10年を主導していくと私たちは考えています。

【この記事の信頼性】 本記事は、フェノメノン株式会社が15年以上にわたりマーケティング支援を行ってきた実務経験に基づいています。公式ドキュメントおよび一次情報を参照し、実際に成果を上げたプロジェクトの知見を元に、記事を作成しています。編集方針などはこちらからご覧いただけます。

【読了時間】:約12分

2025年、ネット代理店の景色が変わった年

【このセクションのポイント】

  • 2025年は大型再編が相次ぎ、独立系の大手ネット専業はサイバーエージェントを残すのみとなった
  • 表層では「規模の問題」と語られがちだが、本質は「肥大化した組織が動けなかった」結果である
  • 業界全体が終わるわけではなく、中堅以下や独立系には別の景色が見え始めている

2025年は、日本のネット広告代理店業界にとって象徴的な一年でした。

博報堂DYホールディングスは、2025年9月にデジタルホールディングス(中核会社オプト)に対するTOBを発表し、同年12月にTOB成立を発表しています。クラフトン(韓国の大手ゲーム会社)はADKホールディングスを買収。TBSホールディングスはデジタルマーケティング支援のWACULをTOB対象としました。米国に目を向ければ、Omnicom GroupによるIPG(Interpublic Group)の大型統合も発表されています。

この一年の動きを総括した日経クロストレンドの記事には、印象的な指摘があります。サイバーエージェントを除く主要な大手ネット専業広告代理店のほとんどが、大手総合広告代理店の傘下に入った——という指摘です。2000年代前半に隆盛を迎えた「独立系ネット代理店の時代」が、2025年で一区切りついたことになります。

この再編の動きは、業界外から見ると「規模の経済が効かなくなった中小代理店の救済」のように映るかもしれません。しかし現場で15年やってきた感覚で言えば、本質はそこではありません。

オフィスで起きていることを描写するなら、こうです。大手代理店の営業会議で「うちは何屋なのか」を聞かれて、即答できる人が減っている。提案書のサービスメニューには「運用代行」「クリエイティブ制作」「分析」と網羅的に並んでいるけれど、一つひとつの強みを言葉にできない。新規提案の場で「で、御社じゃなくAIで全部やったらダメなんですか?」と聞かれて、答えに詰まる。

これは、組織が大きくなりすぎたことの裏返しでもあります。10年前まで、広告代理店の価値は「運用工数の代行」と「メディアバイイングの交渉力」で説明できました。いまはそのどちらも、プラットフォーム側のAIと、事業会社側の内製化によって少しずつ削られています。広告内製化の動きも年々強まっています。組織が大きくなるほど、サービスメニューの整理にも、新しい価値定義への移行にも、時間と政治コストがかかります。再編に動いた大手は、いわば「自前で動くより、グループ再編のほうが早い」と判断したわけです。

逆の景色から見ると、こうも言えます。中堅以下の代理店、独立系、フリーランス、そして社内マーケティング組織にとって、いまは「大手が動けないあいだに立ち位置を作れる」転換期でもあります。大手の傘下に入らないと生き残れない、という話ではありません。むしろ、大手の動きが鈍るほど、機動力で勝負できる人たちには別の景色が見えてきます。

【私たちの実務経験から】 業界全体が終わるという論調には、私たちは賛同しません。2025年の再編の本質は、肥大化した組織が時代の変化に動きづらかった結果として起きた構造調整です。15年間、様々な代理店と事業会社の支援をしてきて確信していますが、いまでも仕事が途切れない代理店もいれば、社内で広告運用を回しきっている事業会社もあります。彼らに共通しているのは「組織が小さく、判断が速く、自分たちの仕事の定義をいつでも書き換えられる」という一点です。再編の波で消えていくのは、規模の小ささではなく、定義を書き換えられないこと。これは中堅以下にとってはむしろ、好機の構造です。

【このセクションのまとめ】

  • 2025年の再編は、規模の問題ではなく「肥大化した組織が動けなかった」構造調整である
  • 業界全体が終わるわけではなく、機動力のある中堅以下や独立系には別の景色が見えている
  • 立ち位置を書き換えられる組織にとっては、いまはむしろ好機の構造である

ここまでで「何が起きているか」は見えました。次に、この再編の解釈として最もよく聞く議論——「AIの自動化があるから代理店は不要だ」という主張——を検証します。

「AIが自動化するから代理店は不要」——この議論の二重の誤り

【このセクションのポイント】

  • そもそもAIプロダクトは単体で成立しない。P-MAXも検索キャンペーンとの並走と人間の手当てが前提である
  • 生成AIへの期待は誇張されており、現場では「叩き台として使える」が「最終アウトプットには遠い」が実態
  • AIに過剰反応するのではなく、できることとできないことを冷静に切り分ける視点が必要である

GoogleのP-MAX、MetaのAdvantage+、各種DSPの自動入札——プラットフォームのAI機能が進化していることは事実です。Google公式ドキュメントには、P-MAXでは入札、予算最適化、オーディエンス、クリエイティブ、アトリビューションでGoogle AIが活用されていると明記されています。生成AIによる広告クリエイティブの自動生成も、各プラットフォームから次々にリリースされています。「だから運用者は要らない」という議論は、一見すると筋が通っているように見えます。

しかし、この議論には二重の誤りが含まれています。

誤り1:AIプロダクトは単体では成立しない

現場でP-MAXを回したことがある人なら、すぐに気づく事実があります。P-MAXは単体では成立しないという事実です。

P-MAXを単独で動かしても、思うような成果は出ません。これはGoogle公式ドキュメントの記述からも読み取れます。Googleは「P-MAXは通常のキーワードベースの検索キャンペーンとの併用に最適」と明記しており、検索キャンペーンとの並走を前提に設計されています。

実務の現場では、それだけでも足りません。指名検索を保護するブランドキャンペーンの維持。ショッピング広告との配信のすみ分け。除外プレースメント・除外オーディエンスの継続的なメンテナンス。コンバージョン目標のヒエラルキー設計と価値の重み付け。商品フィードの整備。ブランド保護設定。アセットグループの構造化。これらを人間が一つひとつ組み立てて、初めてP-MAXは「使える状態」になります。

さらに、データの読み解きという領域があります。P-MAXはチャネル別の細かい配信状況をブラックボックス化していますが、それでもチャネルパフォーマンスレポート、アセットの有効性、ショッピング枠との関係性、検索語句インサイトなどから、「いまAIが何を学習しているか」「どこで予算が消費されているか」を推測する仕事は残ります。むしろ、ブラックボックス化が進んだぶん、限られた手がかりから状況を読み解く力の差が、成果の差として表れやすくなっています。

P-MAXに限った話ではありません。MetaのAdvantage+も同じです。配信目標、データソース、クリエイティブセット、除外設定、計測接続——周辺を全部整えて、ようやくAIが性能を出せる状態になります。AIプロダクトは「ボタンを押せば成果が出る魔法」ではなく、「人間が周辺を整えた上で、ようやく動き出す中核部品」というのが現場の実態です。

誤り2:生成AIへの期待は誇張されている

もう一つの誤りは、生成AIに対する過剰な期待です。

「生成AIで動画もコピーも画像も自動生成できる、だから制作も運用も人間は要らない」——この種の議論は、業界記事やSNSでよく見かけます。しかし、現場で実際に生成AIを業務に組み込んでいる人なら、こう感じているはずです。

「叩き台としては便利。最終アウトプットとしては、まだ粗い」

コピー生成は確かに速くなりました。しかし、生成された100案のうち、そのまま使えるものは多くありません。多くの案は「無難で、どこかで見たような表現」に収束します。相対評価のゲームで勝つために必要な「他社と並んだときに刺さる訴求」を、生成AIは現時点ではまだ自力で作れません。人間が選別し、書き直し、ブランドのトーンに合わせ直す工程が必ず入ります。

画像生成も同様です。商品写真の質感、ブランドの世界観、業種特有の規制や慣習。これらを満たすアウトプットを生成AIから引き出すには、プロンプト設計と選別の手間がかかり、結局のところ撮影とレタッチを併用する案件が大半です。動画生成に至っては、「素材として使えるカットが偶発的に作れる」段階で、ストーリーや尺の設計を含めて任せられる水準には達していません。

生成AIは確かに、業務効率を引き上げる重要なツールです。私たちも日々使っています。ただし、それは「制作・運用の人間の仕事を全部置き換える」ものではなく、「下準備と選択肢出しを高速化する」もの、という位置付けです。

過剰反応をやめて、できることとできないことを切り分ける

AIに過剰に期待することも、AIに過剰に怯えることも、どちらも判断を誤らせます。

AIプロダクトは単体では成立せず、人間が周辺を整える必要がある。生成AIは叩き台までは作れるが、最終アウトプットには人間の選別と編集が必要。この2点を冷静に押さえれば、「AIで代理店は不要」という議論が現場感覚とどれだけズレているかが見えてきます。

私たちの実務感覚で言えば、運用者がやってきた仕事のうち、本当に「機械的な入札調整」だったのは2割か3割です。残り7割は、こういう仕事でした。クライアントの商品ラインナップを見て、どの商品にどれだけ広告予算を寄せるかを判断する。事業の月次P/Lを見て、ROAS目標を再設定する。営業現場と話して、商談化率の高いリードソースを特定する。LP担当者と一緒に訴求を磨く。GA4とCRMを繋ぎ込んで、価値ベースの最適化に切り替える。AIプロダクトの周辺を整え、生成AIで叩き台を作って人間が仕上げる。これらの仕事は、AIに飲まれていません。

【筆者の見解】 「AIで代理店は不要になる」と主張する人の大半は、運用者の仕事を「入札調整」だと誤解した上で、さらにAIプロダクトと生成AIに過剰な期待を上乗せしています。15年の現場で言わせてもらえば、議論の前提が二重に間違っているのだから、結論が現場と噛み合わないのは当然です。AIは現時点で、人間の仕事を全部置き換えるほど万能ではありません。同時に、AIを過剰に怖がって思考停止する必要もありません。等身大の現場感覚で「AIに任せる部分」と「人間が手を動かす部分」を切り分けて、淡々と仕事を組み立てればよいだけです。

【このセクションのまとめ】

  • AIプロダクトは単体で成立せず、人間による周辺の組み立てが前提となる
  • 生成AIは叩き台の高速化には貢献するが、最終アウトプットには人間の選別と編集が必要
  • AI礼賛にもAI恐怖論にも乗らず、できることとできないことを冷静に切り分ける視点が要る

ここまでで「AI不要論」「AI万能論」のどちらにも乗らない冷静な現場感覚を共有できました。次に、AIが入札と配信を最適化していく中で、なぜ勝負が「AIの外側」に移っていくのか——その理由を、広告というゲームの本質から考えます。

広告は相対評価のゲームである——ユーザーは何個も選べない

【このセクションのポイント】

  • 「最適化された広告」と「成果が出る広告」は別物である
  • 広告で問われるのは「最適化されたか」ではなく「競合より選ばれたか」だけだ
  • 全社がAIで均等に最適化されるほど、勝負はAIの外側に移っていく

ここが、この記事の核心です。

広告運用の議論は、しばしば「自社の最適化度合い」を中心に語られます。CTRが何%上がった、CPAが何%下がった、ROASが何倍になった——という具合に。しかし、現実のユーザー行動は違います。

ユーザーは、何個も選びません。

たとえばCookieのない海外旅行サイトを比較している場面を想像してみてください。検索結果に2社が並んで表示されている。料金はほぼ同じ。AIはどちらの広告も「最適化」しています。ユーザーが指を動かすのは、写真が美味しそうだった方、レビューが具体的だった方、コピーが心に刺さった方——それだけです。「より最適化された方」は選ばれません。「より魅力的に見えた方」が選ばれます。

SaaS選定でも、求人応募でも、ECでも、構造は同じです。ユーザーが最終的に手元に残すのは、どの市場でも基本的に1社か、せいぜい数社です。広告というのは、その「数社の枠」を競合と奪い合うゲームです。100点満点中95点を取れば勝てるテストではなく、「他社より1点でも上回ること」が全ての相対評価ゲームです。

ここで決定的に重要な事実があります。AIによる最適化は、市場全体で同時に進んでいるという点です。

GoogleのP-MAXを使うのは自社だけではありません。競合各社も使っています。Metaの自動配信を使うのも、競合も同じです。AIプロダクトはコモディティ化しつつあり、「うちはAIを使っているから有利」とは、もはや誰も言えない状況になっています。

全社が同じAIで均等に最適化されたら、何が起きるか。AIの内側での差は限りなく縮まり、勝負はAIの外側に移ります。

AIの外側とは、こういう領域です。

そもそも何を売っているか。商品自体の差別化。価格戦略。ブランドの認知と好感度。LPで提示される訴求。クリエイティブのトーンと第一印象。レビューや実績の積み上げ。CRMによるリピート設計。これらが全て、「ユーザーが他社ではなくこの会社を選ぶ理由」を作っています。AIはこの領域を最適化していません。AIは、与えられたものを配信先に届けているだけです。

【筆者の見解】 広告運用の本質は、「自社の最適化度合いを上げること」ではありません。「競合との相対的な選ばれ方を作ること」です。AIが入札を最適化するほど、勝負はAIの外側——人間が設計する領域——に移っていきます。15年の現場で見てきた事実として断言しますが、AI時代に成果を出している事業会社は、例外なく「AIの外側」に投資を厚くしています。クリエイティブ、ブランド、商品、LP、計測、CRM。AIプロダクトの設定画面ばかりを眺めている事業者から、市場シェアは静かに削られていきます。

【このセクションのまとめ】

  • ユーザーは「最適化された広告」を選ぶのではなく、「相対的に魅力的な広告」を選ぶ
  • AIが市場全体に普及するほど、AIの内側での差は縮まり、勝負は外側に移る
  • 「相対優位を作る領域」=人間が設計する領域への投資が、成果を分ける

ここまで来ると、「では運用者の仕事は不要なのか」という冒頭の問いに、別の角度から答える準備ができました。次のセクションで、運用の中身がどう入れ替わるかを具体的に整理します。

運用に価値はある。ただし「運用」の中身が入れ替わる

【このセクションのポイント】

  • 旧来の「運用」(入札・配信面・KW・配信時間の調整)の大半はAIに飲まれていく
  • 拡張されるのは「目的関数設計」「クリエイティブ戦略」「計測設計」「事業接続」の4領域
  • 仕事の名前は同じまま、中身が完全に入れ替わる転換期にいる

「運用」という言葉が指してきた仕事は、実は時代とともに何度も中身が入れ替わってきました。

10年前の「運用」は、キーワード選定、入札単価調整、除外KW追加、曜日時間調整、配信デバイス調整——こういう仕事の集合体でした。担当者の腕の差が、CPAに直接効いた時代です。

5年前にはこの一部が自動入札に飲まれました。今、自動化の波はさらに広がり、P-MAXのような「キャンペーンタイプ自体がブラックボックス化している」プロダクトが登場しています。Google公式が明示しているように、入札・予算・オーディエンス・クリエイティブ・アトリビューションがエンドツーエンドで自動化されています。

旧来の運用業務の大半は、間違いなくAIに飲まれていきます。これは抗っても仕方がない流れです。

では何が残るのか。残るというより、むしろ拡張されるのは、次の4つの領域です。

第1は、目的関数の設計です。AIに「何を最大化させるか」を決める仕事。コンバージョン数か、コンバージョン値か、新規顧客LTVか、商談化率か。事業のどの指標を伸ばすことが、自社にとって最も価値があるのか。これは事業理解なしには決められません。

第2は、クリエイティブ戦略です。相対評価のゲームで勝つための訴求設計。競合と並んだとき、なぜユーザーがこちらを選ぶのか。コピー、ビジュアル、UGC活用、動画。Google公式も、P-MAXのアセットの質がパフォーマンスを左右すると明記しています。AIが配信を最適化するからこそ、入力されるクリエイティブの差が結果の差に直結します。

第3は、計測・データ設計です。GA4、サーバーサイドGTM、コンバージョンAPI、価値ベースの最適化、オフラインコンバージョンの取り込み。CookieやATT規制の流れを踏まえた計測の再設計は、専門知識なしには手が出せない領域です。AIに正しい学習データを与えるための土台作りそのものが、運用の主戦場になっています。

第4は、事業との接続です。広告のKPIと事業のKPIをつなぐ仕事。LTVを伸ばすために、新規獲得時のターゲティングをどう変えるか。商談化率を上げるために、どのリードソースに予算を寄せるか。価格やラインナップ、商品設計まで踏み込んだ助言。これは運用というより、もはや経営に近い仕事です。

これを「運用」と呼ぶか、「マーケティングコンサルティング」と呼ぶかは、言葉の問題に過ぎません。実態として、運用者の仕事の重心が、ボタンを押す側から、AIに何を入力するかを設計する側へ、はっきり移行しています。

【私たちの実務経験から】 「運用がAIに飲まれる」のは正しい認識です。しかし「運用者が消える」というのは間違っています。仕事の名前は同じまま、中身が完全に入れ替わるだけです。私たちが支援してきた中で、この入れ替わりに早く気づいた代理店は、単価を下げずに伸び続けています。逆に「もっと細かく入札調整できます」という訴求から抜け出せない代理店は、競合がP-MAXを使い始めた瞬間に、提案の説得力を失いました。次の10年で価値を出し続けられるのは、入れ替わりに気づき、自分たちの提供価値を再定義できた会社だけです。

【このセクションのまとめ】

  • 運用の重心は「ボタン操作」から「AIへの入力設計」へ移行している
  • 拡張される4領域は、目的関数設計・クリエイティブ戦略・計測設計・事業接続
  • 仕事の名前を変えるかどうかではなく、中身を入れ替えられるかが分岐点になる

ここまでで「運用の中身がどう変わるか」は整理できました。最後に、業界で語られる「3つの生き残りの道」の外側に、もう一つの選択肢があることを示したいと思います。

代理店の「第4の道」——3つの典型解の外側にある選択肢

【このセクションのポイント】

  • 業界では「規模・特化・別事業」の3つの生き残りの道がよく語られる
  • いずれも「業態を変える」アプローチであり、中堅以下の代理店には敷居が高い
  • 第4の道は「業態を変えず、立ち位置を変える」=相対優位の設計者になる選択肢である

2025年の業界再編を分析した日経クロストレンドの記事では、代理店が次の時代に生き残るための道として、規模で勝つ、領域特化で勝つ、別事業に転換する、という3つの方向性が示されました。それぞれの典型例を見ていきます。

第1の道は「規模で勝つ」です。M&Aで大手の傘下に入る、もしくは大手連合に加わる選択肢。2025年に進んだ再編はこの道の典型です。スケールメリット、データ規模、グローバル対応力で勝負する戦略になります。ただし、これができるのは資本力のある一部の代理店に限られます。

第2の道は「領域特化で勝つ」です。特定業界(医療、不動産、SaaS等)や特定媒体(YouTube、TikTok、リテールメディア等)への専門化。中堅以下の代理店が選びやすい道で、実際にこの戦略で成果を上げている会社も多くあります。ただし、特化領域の市場規模に天井があり、複数領域への展開には時間がかかります。

第3の道は「別事業に転換する」です。SaaS開発、コンサルティング、DX支援、自社メディア運営など、広告運用以外の収益源に軸足を移す選択肢。これも有力ですが、新規事業の立ち上げにはリソースとリスクを伴います。

これら3つの道に共通するのは、いずれも「業態そのものを変える」アプローチだという点です。だから経営判断が重く、実行に時間がかかります。中堅以下の代理店、あるいはインハウスの広告運用チームには、敷居が高く感じられる選択肢でもあります。

ここに第4の道があります。

それは、「業態を変えずに、立ち位置を変える」道です。

具体的には、自分たちの仕事を「広告の入札・配信代行」と定義することをやめ、「事業の相対優位を設計する役割」と再定義する選択肢です。

入札と配信はAIに任せる。代わりに、目的関数の設計、クリエイティブ戦略、計測設計、事業との接続——この4領域を自分たちの主戦場と位置づける。クライアントに対しては「広告予算をどう使い切るか」ではなく、「競合より選ばれる事業をどう作るか」を提案する。LP、ブランド、商品設計、価格戦略、CRMまで含めて、相対優位を総合的にデザインするパートナーになる。

業態を変える必要はありません。会社名を変える必要も、組織を組み替える必要もありません。変えるのは、自分たちの仕事の定義と、提案の中心軸だけです。

【筆者の見解】 15年間、様々な企業のマーケティング支援をしてきて確信していることがあります。「広告は相対評価のゲームである」と腹落ちした代理店だけが、次の10年で生き残ります。AIに勝負を挑むのではなく、AIが届かない領域——人間が「選ばれる理由」を設計する領域——に拠点を移すこと。これが第4の道の本質です。事業会社側にとっても同じ視点が成立します。AIプロダクトの設定画面の中で勝とうとするのではなく、AIの外側で「なぜ自社が選ばれるか」を磨き続けること。これに気づけた会社だけが、AI時代に伸び続けます。フェノメノンが日々向き合っているのも、まさにこの仕事です。

【このセクションのまとめ】

  • 「規模・特化・別事業」の3つの道は、いずれも業態を変えるアプローチである
  • 第4の道は、業態を変えずに「立ち位置」を変える選択肢である
  • 広告運用を「相対優位の設計」と再定義できた会社だけが、次の10年を勝ち抜く

ここまでで、論考の全体像をお伝えできたかと思います。最後に、この記事のメッセージを整理し、立場別に「次の一手」をまとめます。

まとめ:AI時代の広告運用に、価値はある

【この記事のまとめ】

  • 2025年の業界再編の本質は「規模の問題」ではなく「肥大化した組織が動けなかった」構造調整である
  • AIプロダクトは単体で成立せず、生成AIへの期待も誇張されているのが現場の実態である
  • 広告は相対評価のゲームであり、AIが普及するほど勝負は「AIの外側」に移る
  • 「運用」の中身が、ボタン操作からAIプロダクトの周辺設計と入力品質の管理へと入れ替わりつつある
  • 「規模・特化・別事業」の外側に、業態を変えずに立ち位置を変える「第4の道」が存在する

【あなたが次に取るべきアクション】

事業会社のマーケティング責任者へ。 広告運用の評価軸を、自社のCPA・ROASだけで見るのをやめてみてください。競合と並んだときに、なぜ自社が選ばれるか——この問いに答えられる体制を作ることに、予算と時間を寄せ直す価値があります。AIプロダクトの設定よりも、クリエイティブと計測とブランドへの投資が、次の差を生みます。

広告代理店の経営層へ。 「自分たちは何屋なのか」を、社内で言語化する作業から始めてください。サービスメニューの並びではなく、たった一行の定義です。「入札・配信の代行業」と書けるなら、それはAIに飲まれていく定義です。「事業の相対優位を設計するパートナー」と書けるなら、第4の道を選んでいることになります。

現場の運用者へ。 ボタンを押す技術ではなく、「AIに何を入力するかを設計する技術」が、これからの専門性になります。事業理解、計測設計、クリエイティブ戦略——どれか1つでも深めれば、AI時代に置き換えられない人材になれます。

【さらに深く考えたい方へ】

このテーマに関連して、以下の論点も今後重要性を増していきます。

  • 計測再設計(GA4・サーバーサイドGTM・コンバージョンAPI)と価値ベース最適化の実装
  • ブランド指標と運用KPIの統合的な設計
  • LTV起点のマーケティング設計と、新規獲得側へのフィードバック構造

【最後に】

広告運用のAI時代における「価値」を、自社で定義し直したい——そう感じた方は、ぜひ私たちにご相談ください。フェノメノン株式会社は、15年以上にわたりBtoB・BtoC問わずマーケティング支援を行ってきた知見をもとに、貴社の事業特性に合わせた相対優位の設計をご提案します。

まずはお気軽にお問い合わせください。会社についての詳細はフェノメノン株式会社よりご覧いただけます。

よくある質問

Q1:結局、広告代理店は使うべきですか?それともインハウス化すべきですか?

A1:「どちらか」ではなく「何を内製し、何を外部に頼むか」の切り分けが本質です。日次の運用調整は内製化しやすい一方、目的関数の設計、計測の再設計、クリエイティブ戦略は専門性が必要で、外部の知見を借りる価値が大きい領域です。事業規模と社内リソースに応じて、ハイブリッド型が現実的な解になります。

Q2:P-MAXのようなAI機能に、全部任せていいですか?

A2:単体では成立しないので、全部任せるのは現実的ではありません。Google公式も、P-MAXは検索キャンペーンとの併用を前提に設計されていると明記しています。実務では、ブランドキャンペーンの維持、ショッピング広告とのすみ分け、除外設定のメンテナンス、コンバージョン目標の設計、商品フィードの整備など、人間が周辺を組み立てて初めてP-MAXは成果を出します。「任せる部分」と「組み立てる部分」を切り分ける視点が必要です。

Q3:生成AIで広告クリエイティブを全部作れる時代になりますか?

A3:現時点では「叩き台の高速化」までです。コピー生成、画像生成、動画生成のいずれも、業務効率化のツールとしては有用ですが、最終アウトプットには人間の選別と編集が必要なのが実態です。相対評価のゲームで勝つために必要な「他社と並んだときに刺さる訴求」を、生成AIが自力で作れる段階にはまだ至っていません。過剰に期待せず、過剰に怯えず、「下準備の高速化ツール」として組み込むのが現実的な使い方です。

Q4:クリエイティブだけ外注、運用は内製、という分け方はどうですか?

A4:相対評価のゲームで勝ち続けるなら、有力な選択肢の一つです。ただしクリエイティブと運用は本来連動していて、A/Bテストの設計や学習データのフィードバックなど、両者の橋渡しを誰がやるかが成否を分けます。窓口を一本化するか、社内に統括役を置くことを推奨します。

Q5:中小企業でも「相対優位の設計」なんてできますか?

A5:規模に関係なくできます。むしろ中小企業の方が、商品特性や顧客特性が明確で、相対優位を作りやすいケースが多いです。「自社の商品が、競合と比べてなぜ選ばれているか」を顧客インタビューで掘り下げ、その内容をクリエイティブとLPに反映する——この一連の作業が、相対優位設計の出発点です。

Q6:広告代理店の業界再編は今後も続きますか?

A6:続くと考えられます。日経クロストレンドが報じたように、2025年で大手ネット専業の独立系はサイバーエージェントを残すのみとなりました。ただし、業界全体が終わるという話ではありません。再編は「肥大化した組織が動けなかった」結果としての構造調整であり、機動力で動ける中堅以下や独立系には、別の景色が見え始めています。再編後の市場で勝てる立ち位置を、いま設計しておくことが重要です。

参考文献・出典

【業界動向・再編】

  1. 日経クロストレンド「オプト、カルタ、ADK…急速に進む広告業界再編 生き残りに3つの道」(2026年1月公開) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01301/00004/ ※2025年の業界再編の事実関係および「3つの生き残りの道」の論考の参照元として活用
  2. 日経クロストレンド「持ち株会社同士の再編を尻目 大手広告主から独立系への依頼急増」(2025年12月公開) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00079/00331/ ※米国広告業界の再編動向(Omnicom×IPG等)の参照元として活用

【プラットフォーム公式ドキュメント】

  1. Google 広告ヘルプ「P-MAX キャンペーンについて」 https://support.google.com/google-ads/answer/10724817?hl=ja ※P-MAXの自動化範囲(入札、予算、オーディエンス、クリエイティブ、アトリビューション)の参照元
  2. Google「P-MAX:多彩なチャネルの広告枠を活用」(Google広告公式) https://business.google.com/jp/ad-solutions/performance-max/ ※「広告運用における専門知識(PDCAの活用など)が不可欠」という公式見解の参照元
  3. Google 広告ヘルプ「見込み顧客を発掘するための P-MAX のベスト プラクティス」 https://business.google.com/jp/accelerate/resources/articles/performance-max-best-practices-for-lead-generation/ ※AIへの入力品質(クリエイティブアセット、オーディエンスシグナル、コンバージョン目標設定)の重要性の参照元

【市場規模・統計】

  1. 株式会社電通「2024年 日本の広告費」(2025年2月発表) https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0227-010853.html ※インターネット広告費の市場規模・成長率の参照元

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